大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)489号 判決

控訴人は、右会社と被控訴人間に被控訴人主張の分割払契約を締結するについては右会社に要素の錯誤があつたからこの契約は無効である旨、及び仮にそうでないとしても右会社が右契約を締結したのは被控訴人の詐欺行為によるものであるから右会社は控訴人主張の日にこれが取消の意思表示をしたと抗弁するので先ずこの点について審究する。

(証拠)を綜合すれば次の事実を認めることができる。

被控訴人は昭和二十九年七月頃東邦ベアリング株式会社を含む約八十名の債権者に対し総額約二千三百万円に達する債務を負担し事実上破産状態に陥つたのでその善後策として会社再建計画をたて債権者等に対し協力を求めた。この再建計画案は、被控訴会社として将来の受註を確保して生産の裏付を得ると共に予算経済の実行、経費の節減を図り会社再建に努力するから債権者等においてもこれに協力する意味で各自の債権を分割払とすることを承諾してほしいという趣旨のもので、被控訴人はその頃右の趣意を記載した書面の外参考資料として後記の如く再建計画の内容を数字により示した再建事業計画目論見書、経費明細表、及び弁済計画書を作成し、これら同文の書類を前記会社を含む各債権者に送付した。(甲第四ないし第七号証はその際前記会社に送付せられたものである。)なお右会社に対しては右の書類と共に被控訴人が同会社に対し負担する本件手形金合計百四十九万五千三百七十九円の債務を被控訴人主張の如き分割払の方法により弁済したいからその承諾を求める旨の願出書(甲第八号証の一のうち末尾の「右願出を承認する云々」以下の部分を除いたもの)を送付した。当時被控訴人の資産及び営業内容からみて前記の如き多額の負債を早急に弁済することは到底困難な状況にあつたので、債権者等の間においてはこの際被控訴人の再建計画に協力しその事業収益から分割弁済を受けることにより各自の債権の回収をはかる外はないとする意向が支配的であり、東邦ベアリング株式会社としても同様の見解の下に同年八月二十四日後記の如き附帯条件(但しそれが控訴人主張の如き解除条件であるかどうかの点は後に判断する)を附して各分割払の申出を承諾する旨を被控訴人に回答し、被控訴人は右附帯条件を承諾したので、ここに被控訴人主張の分割払を目的とする契約が右会社と被控訴人間に成立し、なおその頃他の債権者等もまたすべて被控訴人の分割払の申出を承諾したのである。

控訴人は、右会社が被控訴人に対し右の如く分割払を承諾したのは、当時被控訴人から示された前記の各書類(甲第四ないし第七号証)に記載の再建計画が真実のものと信じたからに外ならないのであるが、この再建計画なるものは、実は、単なる机上計画であつてその実のないものであつたから右会社が被控訴人の分割払の申出を承諾したことには要素の錯誤があつたというけれども、右会社と被控訴人間の右分割払契約において被控訴人の再建計画が真実のものであることをその契約の重要な内容とする旨の明示又は黙示の意思表示があつたことは控訴人の全立証によるもこれを認め難く、むしろ右説明の事実関係と前記甲第八号証の一、二の記載に徴すれば右会社が被控訴人の再建計画を真実のものであり実行可能のものと信じたとしても、そのことはせいぜい右会社が右分割払の申出を承諾するについての動機であつたに止り当該契約の重点はもつぱら分割払の方法により右会社の債権の回収をはかることにあつて被控訴人の再建計画がその計画通りに実現することまでを契約内容としたものではないと認めるのが相当である。もつとも右会社は右承諾にあたり附帯条件を附し被控訴人もこの条件を承諾したけれどもその条件の内容は第三者の保証、石川島重工業株式会社からの受註内容の明示、債権者等による被控訴会社の経理及び事業の監査並びに監査担当者の互選、債権者等に対する毎月一回の営業報告等に関する事項であつて、後記引用の原判決理由に記載の通りこれらの条件はいずれも被控訴人の分割払の履行を担保する目的で定められたものと解せられるのであるから、かかる条件を附して承諾したことは何等前記認定の妨げとなるものではない。のみならず被控訴人の示した再建計画が必ずしも架空のものでないことは後記の通りであつて、いずれにしても被控訴人の再建計画の真実であることが本件分割払契約の要素をなすものとしその点に関し前記会社に錯誤があつたことを理由に該契約を無効とする控訴人の主張は理由がないというべきである。

(奥田 岸上 下関)

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